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2017-03-30

 「遺影をとりそこねました」

初めて来られた時のひとこと.抗がん剤を使って髪の毛が抜けてしまったのだという.まだまだこれから生えて来ますよ,と言うとうれしそうに笑われた.ややこしい病気で病院に通院,ややこしくない血圧とかの治療をうちですることに.来院の度に冷静に病状や検査の結果を話される.

 「ここへ来るとね,何かほっとします」

うん,うちの看護師さんたちの力であろう.本人たちは知ってか知らずか,彼女らにはそれだけのパワーがある.声,でかいし.

 髪の毛も伸び何も変わらないように見えても少しずつ病気は進み,通院先にホスピスのある病院がひとつ増え.


  「先生,往診来てもらえませんか」

電話の声がしんどそう.往診予定は2つ入っていたけど,その日は奇跡的に午前の診察が早く終わっていた.

「すぐ行きます,家どの辺っけ?」

町なかのややこしい場所だったがとぎれとぎれの息で教えてもらった道順はこれでもかというくらい正確で,最後は指示通り縁側から家の中へ.呼吸と爪の色を見ただけで救急車を呼ぶことは決定.診察して,救急車呼ぶよ,と言ったら酸素はどのくらい?と聞かれた.ちょっと低いみたい,と答えて病院と消防署に連絡.

「息子さんは?」 

「今日は遠くへ出張」

「電話番号分かる?」 

携帯のアドレスを出される.電話で救急車で病院へ向かってもらうことをお話しする.

「一緒にきてもらえる人居るかな?」 

「裏のねえさんに頼むわ」と電話される.

「診察券と保険証は?」

取りに行こうとされるのを制して動いちゃ駄目,と.

「大分悪い?」 

「いや,えらくなるとあかんし」 

「向うの引き出しの上から二段目.あ,携帯の電池減ってる,充電器もとって下さい」

ベッドの下で充電器発見.

「玄関の鍵は?」 

「靴箱の上の茶わんの中」

「火の元,ここだけ?」

「そう」

石油ストーブを消す.

 義理姉さん,到着.膝が悪くて,と杖をつきながら来て下さった.救急隊も到着.病状とバイタルを説明.SpO2 62,と小声で話して酸素をお願いし,玄関の鍵をかけて義理姉さんに渡す.担架に向かって気をつけて,と声をかけたらうなづかれた.非力な町医者に出来るのはここまでだけ.無事を祈りつつ次の往診先へ.


 程なくして訃報が届く.遺影は,撮れてたのかな.これだけは聞けなかった.

 

 

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